ドレッシングルームを後にし、トランスポーターを乗り継ぎ、移動。レナとミーナは、ゲームエリアとホストエリアからなるVWTと呼ばれる棟群を出、アミューズメント区画内に延伸された一部ホストエリアへ到着した。つまりそこは、ゲストエリアに隣接する境界部。 レナ達、囚われたプレイヤーにとって、非常にストレスの掛かるデリケートな空間だった。プレイヤーやVIP達と違い、一般客の目に直接晒される危険が伴う。そしてパメラ達支配者側にとっては、捕らえたプレイヤー達に心理的圧力を与え自由に操る為の便利なツールと化す。
乗り継いだトランスポーターの停止時、手すりを掴んでいたとは言うものの、レナは微かな横揺れを感じた。トランスポーターの実体は、ビークルと呼ばれる天井レール搬送式の横移動ゲージとエレベーターの組み合わせの複合型移動設備である。ゲーム進行上の設定が破綻しないよう、自動化倉庫的なプログラムで管理されている。具体的に言うと、『ターコイスに居たプレイヤーがトランスポーターで移動したら突然べノンの要塞だった』などと言うことが起こらないようにインターロックされている。内装と内寸こそ統一されては入るが、各種液晶表示及び照明は、設定に応じて自動で変更される。演出の為だ。
トランスポーターの扉が開くまでは、考えても解るはずのないミーナと和奈のこれまでの関係を推測したりしていた。でも、宇宙船内のような回廊に一歩踏み出した瞬間、アキラへの想いが激しく甦った。
ミーナが回廊の一画にある端末を操作し誰かと連絡を取っている間、回廊の壁にある大きな丸窓の向こうを覗いた。ホールらしき空間があり、音楽が鳴り響いている。ライトが交錯し、ディスコっぽくもある。レナは、先日アキラと初めて交わらされたあのイベントを思い出した。体が熱く火照って来る。
ホールの正面には、スクリーンのようなものが見える。映し出されているその映像に、レナの関心は注がれた。
昨日、レナが吊るされたあのスタンドと同じタイプのものがある。巨大なC字型ステップに両足を開脚状態で預け、誰かが拘束されていた。顔と恥ずかしい部分にはオートイフェクトが掛けられている。レナは昨日、あんな感じで拘束されたのだ。そして、その股間をアキラの顔がそして唇が触れた。どんな臭いがしたのか、自分に対してどんな感想を持ったのか、不安が甦ってきた。生理的な嫌悪感を抱いたのではないのだろうか？嫌われたのではないだろうかと思うと、胸が苦しい。その一方で、アキラが望んでレナの割れ目に舌を転がせてくれたのかもと連想すると、子宮がムズムズする。あーあ、もう頭が可笑しくなる。アキラと激しく抱き合い、色々と確かめ合いたかった。
パメラのチームっぽい女性一人と、メットのようなものを被った全身ワインレッドの装束の女。そして、白衣っぽいものを来た女が居た。
どうやら、悪戯されている裸の人物は男性のようである。ワゴンに色々道具が積まれている。ワインレッドの装束の女は、透明の容器を手に持っていた。白衣の女はホースのような物を手に持っている。
サラのチームは、プレイヤーやVIPの為、美容クリニックと提携している。つまり、惑星ターコイス該当施設内に医院を置いているのだ。一般の来場者へのサービスも兼ねてるのであるが、SVシリーズの開発補助の意味合いが大きい。Worldも後押しているのだろう。そして副産物として、美容と健康の為、或いはプレイの為に腸内洗浄等も行う。パメラのチームには、医師免許を持ったプレイヤーが二人いるらしい。ステージでのパフォーマンスやゲーム、そしてチャットや物販での凌ぎだけで成り立っている自分やアリエスのチームとは、経済規模が違う。パメラ達が毎日どれだけの資金を動かしているのかと思うと、空恐ろしい。
無謀な戦争にレナとアキラを巻き込んだアリエスを恨めしく思った。「本人どこに居るんだろ？きっちり責任取ってよぉ」と心の中で叫ぶ。何故か、すまなそうなマサトの面影も脳裏を過った。複雑な気分。
透明の容器の中に排泄物らしきものが零れ落ちた。でもわざわざこんな場所で行うなんて……
顔にモザイクを掛けているのは、モザイクを外さないことを餌に、心理的駆け引きの上で彼を完全にコントロールする為。
と言う事は彼はプレイヤー。「まっ、まさか」と思ったその瞬間、ミーナが優しく肩に手を触れ、先に進む事を促した。
歩きながら、ミーナに聞きたいことがあった。でも、真実を知るのが怖くて、口を開く勇気が出なかった。レナに先に行くよう促し、ミーナは後からゆっくり付いて来る。
丸窓の並ぶ区画から、突き当たりの別区画に入った。鉄のブラインド越し、ステージ裏にあるもう一つの部屋の様子が見えた。
スタンドに拘束された男はゴーグルで目隠しされている。うなじと顎のライン、鼻筋、気張るようにぐっと結ばれた唇を素早く確認した。
アキラだ……
レナのテンションが急激に低くなった。選択肢がないのだ。
アキラと同じような辱めが、自分にも訪れるのかもしれない。
でも、恋人を見捨てて、リタイヤする気は無い。
突き当りを右に回り、見慣れた風景に至った。扉上で頭を擡げたディスプレイ。そこに表示されている状態が、PPS3であることを改めて確認する。定められた手順で、手続きを行いながら、何故か心は落ち着き始めていた。シューっ、と扉は開く。
自らの赴くべき方向を見定め、レナはスタジオへと歩を進めた。
マサトは、天井のユーティリティーディスクの穴の一つからポールが降りて来るのを眺めた。それを伝うように、黒い何かが這い降りて来る。双眼鏡のようなそいつは、降下しながら回転し、パメラを見つけた。砲塔がターゲティングするかのようにスムーズに焦点が合わされる。
パメラがスピーチを始めた。
「パメラ軍は、正式にサラ軍と同盟しました」
「昨日、アリエス軍とレナ軍の連合軍艦隊が、パメラ軍と同盟関係にあるサラ軍の宙域を侵犯、攻撃を仕掛けてきたのでこれを撃退しました」
同じポールの上からもう一つのカメラが滑り降りてくるのに気付き、目を反らすように俯くマサト。その髪を、無造作に掴み、無理やり顔を上げさせる。「痛てて」と呟く彼の目の前に、睨みつけるように視線を向けるカメラの姿が有った。
「そして、アリエス軍側の艦体司令官を捕らえました」
パメラの手首に再び力が入り、マサトの頸を揺さぶった。
「パメラ軍は彼が正式な捕虜となったことを宣告します」
マサトを冷めた目で見つめていたパメラ。もう一度カメラに振り向こうとした瞬間、その表情は鬼の形相になった。
「アリエス、解ってる？ちゃんとケジメ付けに出ておいで」
パメラはそう言うとマサトの股間をズボン越しに鷲掴みにし、陰嚢ごと押し上げた。
歯を食いしばるマサト。主人の意志に反して、パメラの横暴に身を委ねようとする生殖器を手懐けねば……
「ほら、早く助けに来ないと、貴女の彼氏じゃなくなっちゃうわよ」
部屋の両脇に跪く二人の僕。三台目のカメラが天井から登場し、左右に頸を振る。物欲しそうに前のめりになるボーイフレンドを紹介するかのように。
努力の甲斐もなく八割がた充血してしまったマサトの太棹は、ズボンの上から捕まえられた。形をなぞる様に、それを指で上下に扱くパメラ。
歯を食いしばったまま、唇を半開きにし、不規則に息を吐く。性器が露出されていない限り、Automatic masking effect devicesは稼動しない。そもそもPPS1なのだから、あそこを引っ張り出されてもノーマスクの可能性さえある。そんなことを考えたら少しは勃起が収まるかとも思ったがそうも旨く行かない。シースルーのレオタード姿のアリエスが、大事な割れ目を弄ばれた映像を鮮明に思い出してしまった。息子はますます充血し、激しく脈動までし始める。もう駄目じゃん、完全にアリエスの轍を踏んじゃってるよ。あー、もう駄目！駄目！俺は駄目プレイヤーだ。駄目彼氏だ。
哀れな諦めの感情が、却って被虐的な興奮を呼び起こす。マサトの体の中心を寒気のような奇妙な感覚が貫いた。
3Ｄスキャンされる前から既に、性欲持て余し気味だった。トイレに行った時、一発抜いとけば良かった。
パメラがベルトに手を掛けたその瞬間、マサトの逸物は既にギンギンで痛いくらいだった。半ば白目を剥きかけていた彼は、一瞬目を見開き、パメラの動きを注視した。荒っぽくバックルを外され、覚悟したマサト、顔を隠すように俯く。
しかし、パメラはズボンの前を肌蹴させただけで、一旦手を止めた。
パメラは左手でマサトの髪を掴むと、顔を上に向けさせた。右手で彼のTシャツの腹部の裾を持ち上げる。クルクルと丸めたそれを彼の口元に宛がうと、命令する。
「咥えなさい」
啄ばむように、命令に従うマサト。
「可愛いっ！」
パメラは馬鹿にするようにそう呟いた後、彼の両脇腹を掴みこむように十本の爪を突き立ててきた。
獲物の心中を窺うように、彼の表情を観察する。
睨めっこを避けるように視線を落とすマサト。パメラのレオタードのニップルの部分が目に入った。オレンジ掛かった軟性クリアパーツのその中で、パメラの乳首が挑発的に勃起している。「彼女も興奮してる？」と思うと、マサトの体中に微電流のような信号が走り回った。ぶるっと震え、思わずパメラの表情を見詰め返す。
女王の目は、もう自分のお人形を愛でる少女の眼差しになっている。彼女はマサトの腰に左手を回して来た。汗ばむ腹筋の稜線に右手の爪を這わせる。スケートリンクを削る幾組みのブレードのように、マサトの腹部の上を走り回るパメラの指先。赤いブリーフの腰ゴムを押しのけ、パメラの指先がフォワードして来た。彼女の指の甲が亀頭を擦り、陰毛の茂みに指先が進駐して来る。
「ヒィっ！」
思わず自分の上げた女の子のような悲鳴に驚くマサト。
パメラの赤い起毛の右の肩当が、目の前で揺れる様を虚ろに見詰める。
涙を滲ませながらマサトは言った。
「それは、トワリングバトンじゃないからっ！」
「まだ、そんな面白いこと言う余裕があるのね」
失言が、ペニスを握る女王の右手に燃料を投下してしまった。