まるで、夜の繁華街のビルディングが宙に浮かんだような宇宙船。それは、ハイカットシューズのような形をしている。
つま先の上面にあるコックピットにディアナは居た。今宵は、外せないステージがある。彼女メインを謳って集客したダンスショーなのだ。早く用を済ませないと……
旗艦を挟むように2隻、そしてかなり離れて右翼と左翼に3隻づつ、都合9隻編成で交渉相手を待った。
ディアナはダンサーやスタッフの殆どをVIP扱いで雇い、プレイヤー達は見習いで固めている。他のチームとは昇格パターンが逆なのだ。普通チームのリーダーは、VIPの中からプレイヤー候補を探す。だがディアナの方針は違った。まずプレイヤーとして採用し、ショービジネスに実力を発揮しそうなメンバーを育てる。その後、わざわざVIP待遇に転籍させて、ダンサーとして雇用するのだ。この仕組みのおかげで、ゲームのゴタゴタがあったとしてもビジネスのほうに集中でき順調に収益を上げることが出来る。
あいつがこの世界に参加し台頭してくるまでは、他に追随を許さない稼ぎ頭だった。
そう！あの女、パメラ。奴は規約ギリギリのビジネスを展開し、どんどんと頭角を現した。半年程前にはディアナの稼ぎを上回りやがった。きっと、運営会社の取締役の一部とか関連会社の関係者の中に、あいつに忠実な客を増やしている筈だ。さもなければ、あんな際どいSMビジネスが展開できる訳がない。もっともアダルト寄りの勢力だった自分達が、むしろ上品なチームに見られだした。
パメラ台頭のドサクサに紛れて現れたのが、タレント属性あやふやなアリエス。
ディアナにとって最大の戦略上のライバルは、パメラのチームの筈。なのであるが、ディアナが今もっとも頭に来ているのはアリエスだった。強面で手強いパメラとの戦闘を避け、ディアナの領土を掠め取りながら、頭角を現してきた。おかげで、売り上げに続いて、支配エリアNO.1の地位からも引き摺り下ろされた。そろそろ本格的に挽回を図ろうと戦略を練り始めていたところ、どういう風の吹き回しかアリエスは、パメラのべノン要塞に電撃作戦を仕掛けることを画策。
大胆にもディアナに密約を持ちかけ、それを実行に移した。間抜けな事に、パメラの戦略にあっさり破れ、惨めで恥ずかしい顛末となったのは周知の事実である。最近でもっとも盛り上がったペナルティーゲームとなり、祭り状態になった。運営会社としてはウハウハだろう。
一方で、パメラ軍との境界基地をちゃっかり手に入れたディアナだったが……
それくらいで、生意気なアリエスへの怒りが収まった訳ではない。
広域設定していたstar globeの端に、3個の光点が現れた。平和的意志を示す約束通りの編成だ。
単艦で有視界にまで進み出てきた一隻のカマキリは、レナチームのリーダー代行。恐らくショウと呼ばれるプレイヤーの乗艦するフラッグシップだろう。
ショウの交渉内容は大方想像がついている。パメラとサラの同盟軍に対する他勢力の大同団結。つまり、アリエス軍とも同盟を結んでくれとの要請だ。
現状NO.2のディアナの勢力である。リーダーも不在で宇宙船の多くが修理中の半死半生グループの願いを、そのまま聞き届けてやる謂れはない。
通信ウインドウが展開し、予想通りの男が顔を現した。長身で、不敵な面構えのその男。やり手そうな割りに、近頃の戦いっぷりはかなり不甲斐無い。昨日の戦闘にも敗走して来たばかりだ。
真面目にチームメイトを助け出そうと、駆けずり回る姿は健気には見えた。
「初めまして。宜しく！」
ディアナは先に挨拶すると、相手の機先を制して更に語りかけた。
「私から、提案があるんだけど」
不敵な微笑みを浮かべ、更に言葉を続けた。
「それ以外は、呑めないわ」
あのじゃじゃ馬の横っ面を張り飛ばしてやらないと、気が済まない。
ディアナはまだ直接あったことのないアリエスの存在を身近に感じだした。
そして、久しぶりに戦闘プレイヤーとしての血が騒ぐ。
これからのゲームを楽しむ為、この男に是非とも毒饅頭を食らって貰わなければならない。
直径2メートル程のサークルの中央にあるスチール製のベッド。温もりが感じられないそのベッドの足方向の縁には、一対のクッションパッドが取り付けられている。椰子の実を二つに割り開いたような形のそれに腰を落とすように促された。恐る恐る、尻を乗せるレナ。
初めヒップを柔らかく包むように支えてくれたそれは、外方向にバネが効いていて、体重を掛けると尻タブを左右に押し開くこうとする。「いっ！」と叫び、中腰のまま、姿勢を止めたレナ。それを見て白衣の女が、レナの背を脇から支えた。ベッドの両脇の地面の穴から伸びる黒いL字型のパイプ。直径は雨どい程もある。レナの背後に門の字型に建つそれにもたれ掛かるよう、女は促した。
彼女は今さっき部屋に入ってきたばかりで、ミーナの紹介に拠ると和奈の同僚だという事だ。股間を押し広げられるのを避けるため、背後の鉄パイプに器用に体重を預けるレナ。その目論見を潰すように、ミーナと白衣の女はレナの両脚を掴んだ。そして、レナの立ち位置の両脇にあるもう一組の鉄パイプに、彼女の膝を左右順番に引っ掛けた。背後のパイプと違って、膝の高さ程にあるそのパイプの先にはエルボが天井向きに取り付けられている。ミーナが、ベッドに据付けられたディスプレイ画面を操作。パイプがレナの前方に向かって30度程回転しながら、レナの胸の辺りの高さにまで上昇した。逃れる術を失ったレナの体重の殆どが、ヒップの乗るパッドに掛かった。左右に股間が押し広げられていく。男性が挿入体勢に入る為、女性の太股に対して力強くそうするように。
彼女は観念し、自分を支えるそれらの無機物にバランスの全てを委ね、目を閉じた。そして鼻から深く長い息を押し出す。
「まったくサラの基地には人を開脚させるこんな大掛かりな玩具が、一体どれくらい用意されているんだろう」とそう思うレナ。
今度は、鼻から深々と息を吸い込んだ。空気を吸い終わる半ば、鼻腔に違和感を感じた。数分前、レナを困惑させたあの臭いが再び甦ってきた。薄目を開け、レナから見て正面にあるもう一つのサークルを見遣った。アキラを取り囲んでいた女達の内、ワインレッドの装束の女ともう一人の白衣の女。洗腸の道具や容器を運びながら、レナが拘束されているベッドの方向へと進んで来る。
ついに自分の番が来たのかと、一瞬身を強張らせた。レナの心配を他所に、彼女達は殆どレナに関心を寄せること無く、ベッドの背後にあるもう一つのエアロック奥空間へと消えていった。
開閉音とレナの頭を混乱させる残像そして残り香を置き去りにして……
数日前に、思わぬ状況で想い人と結ばれたばかりのレナ。その恋人の生き物としてのありのままの姿を見せられた。彼が目隠しされていたのは幸いだったとは言え、却って無防備な恋人の行為を目撃させられてしまった。音を発てながら蠢動するその部分。戦慄く内転筋や腹筋が脳裏から離れない。その光景を不潔にも思い、軽い吐き気も感じた。だからと言って、アキラが嫌いになってしまう方向には心が動かなかった。いつの間にか他人事のように自分を俯瞰するレナが居た。
あんな状況を目撃させられた自分をこれからどのように遇して良いのか判らない。無かったことにすれば良いのか？そんなことは果たして可能なのだろうか。それとも自らもっと深みに嵌れば良いのだろうか、でもそれがパメラ達の思惑なのかも？正常な思考が今後保てるだろうか？何か頭を整理するテンプレートが欲しい気分だった。何も考えることが出来ないにも拘らず、潜在意識が強迫観念のように、思考の継続を求めてくる。それに反して、頭の中は真っ白になって来た。茫然自失とはこう言う状態を言うのだろうか。