『レナの目がスイッチ切れたようになっている』、事にミーナは気づいた。やっ！やばい……
ミーナはおもむろにレナの右乳房を鷲掴みにした。
案の定、驚きの声も上げず、虚ろな瞳をミーナに向けるレナ。おーい！戻ってー、戻っておいで。
和奈の同僚である美月。彼女も作業の手を止め、「何事？」との意味を含んだ視線をミーナに向けて来た。
レナがようやく反応しボソッと声を出した。
「なっ！何？」
不自由で恥ずかしい姿勢のレナのお腹を優しく撫でてやりながら、ミーナは宥めるように語りだす。
「あのね、これからすることは、私も美月ちゃんも経験済みなの。それと和奈ちゃんもね。男女間の体験のフィードバックって言うか」
自分も引き合いに出され、美月が頬を紅くする。
そんなことは無視して、彼女に応援を求めるミーナ。「あんた担当者でしょ！」と迫るような視線を送りながら。
レナ専用に製作されたサンプリング用ディルドを滅菌パケージから取り出しながら、眉間に皺を寄せ、言葉を選ぶ美月。
「パートナー同士の体感の視座交換に拠る相互認識、体験の共有ぅっ、うっうっと」
危うく、物を落としそうになりながら、言葉を続ける。
思わず目を細めるミーナ。和奈の面影を美月に重ね、「こいつら先輩も後輩もどっこいどっこいね」と感じた。
「ええっと、つまり、レナさんとアキラさんの愛の営みを、お互い体験し合うことに拠って、相互理解を深めると言うか高めると言うか……。それで、今日のワークはレナさん側からアキラさんへのサンプリングを行います。性行為パターンは少しアブノ……」
ミーナが美月の言葉を制するように彼女を睨んだ。そして、代りに喋りだす。
「いいわ、まずはそれを装着して見ましょう。実感しやすいだろうから」
美月は頷き、ミーナに当然の如くそれを差し出した。「別に良いけどまた私かよ」と思い、唇を歪めるミーナ。
「装着要領のサンプルビデオ撮るんで、下腹部撮影させて貰います」と美月が言った。
レナの表情が曇り、強張るのが判った。自分の大事な部分をサンプル呼ばわりされて嬉しい訳がない。
美月が、殆どテヘペロ顔でウェアラブルカメラを手渡してきた。
天井から、カメラを従えた支柱が、ミーナの作業を邪魔しない間合いで降りて来る。
下唇を前歯で軽く噛み、覚悟するように目を閉じるレナ。ウェアラブルカメラのフレームを頭にセットした後、ミーナはレナの顔が映らないように、股間の方にだけ顔を向けるよう努力してやった。
大きく両脚を開いているため、赤い抗菌吸湿スポンジの割れ目から、こじんまりした合わせ目が覗いている。
ミーナの手にしているディルドーは一般的な二股ディルドーとはかなり見かけが異なる。真ん中には陰嚢も再現され、その上部には小さな機械ＢＯＸがある。これからレナの性器に挿入しなければならない方の張り型は、一見ペニス形状ではあるが用途が違う。挿入後、起動させると膣腔内を模りするかのように広がる。ラテックスに包まれた粘性流動ゴムとその支柱の役目をする振動装置で構成されているのだ。表面にはゼリー状物質が塗布されているが、これは所謂、性交用潤滑油ではない。プラスに電荷された薬剤で、むしろ滑り難くする性質を持つ。行為中にディルドが抜けてしまわない為だ。
左手の指で、レナの湿った一対の柔肌を左右に開き、右手で「ぐっぐっ」とゆっくり挿入する。具合を確認しながら、9割方挿入、レナの尿道口辺りに対面する位置にあるイボイボの付いた箇所を目視で確認した。ミーナ達そして和奈達に言わせると、これは非常に凶悪な装置。バイブや回転運動などではなく、微弱な電流そのものを流す。誰言うとなく、今では『漏れ電』と呼ばれている。油断してると、おしっこが漏れそうになる。と言うか、ミーナもチビっと漏らしたことがあった。
抽送行為用ディルドの根元上部には、小さなエプロンのようなものがある。そしてその裏側根元には、二重の吸盤のような部位があった。
「あっ、ああっ」
ミーナがレナの敏感な肉の芽を探り当て、剥き出しにしたのだ。
腰を震わせ堪えるレナ。ミーナは真ん中の小さな吸盤にクリトリスの先端を吸わせた。
「ふっ、むっ」
レナの呻きに調子を合わせたかのように、エプロン部を一気に貼り付ける。それは、サンプリングスーツ本体下腹部の定位置ラインに綺麗に収まった。
ディルドの根元、レナ側には溝付きパッキンのような裾部分がある。ミーナは床にほぼ跪き、左右を交互に確認、レナの小陰唇をその溝に大まかに押し込んだ。我慢しているのか、レナは不規則に鼻息の音を発てた。
レナの肉門の嵌り具合を再確認、ディルドをグイと奥に押し込む。
「おっ」と声を上げ、レナは一段落したかのような溜息を吐いた。「まだこれからなのよ、レナ」と内心で語りかけるミーナ。
ウェアラブルカメラを頭から外した。美月が何か言いたげに｢あっ！」と声を上げる。威圧するように美月を睨みつけると、彼女は黙った。
「確認モードで起動して」
美月に指示する。
「ぐっ！うっ、えっ？」
膣内側の挿入部分が、レナの膣腔内を満たすように膨張し始めたのだ。子宮を押し上げられる感覚を感じているかも。
「うわっ！わわわ？」
レナの小陰唇をパッキンの溝が包み込むように吸い込み始めている。行為中に、ディルドに挟まれ捩れない為。そして主な目的は、奥に潜む海綿体に精密な刺激を与える為。
自分も経験があるので、気持ちが判る。でも、逐一上げるレナの声が健気にアナウンスしてくれている様で、思わず笑いそうになる。
「レナ！痛いところ無い？」
彼女は、医者に掛かる患者のような不安な表情を浮かべ応えた。
「痛いところは無いけれど、なんだか腫れてるみたい。お腹の中とか、そのあのあの、あの口の辺り」
レナの困惑した表情を見て、ミーナは思わず「プッ」と笑ってしまった。
「私もそうだったから、大丈夫。ねっ！美月ちゃん？」
顔を赤らめ、頷く美月。
「じゃあ、体感モードに切り替え。フィードバック、スタート！」
腹部を波打たせるように震わせ、驚きの表情を浮かべるレナ。ミーナは覚悟を促すように語り掛けた。
「じゃあ、初めての体験でしょうけど、触って見るね！」
抗う選択肢の無いレナは、唇を一文字に結んで頷いた。
「で、認識トレーニングの為なんだけれど、あなたのチンチンを良く見ててね」
薄笑いを浮かべて見せたミーナの冗談を受け止める余裕は、レナには無かったようで、ただ指示に従った。
始めてみる気持ち悪い生物を観察するかのような歪んだ表情で、それを見詰めるレナ。
ミーナはディルドの先端、尿道の上部を人差し指で撫でた。
「なっ！ああっ」
例の極悪な機構が反応したのだ。悪乗りして「ちびらせてやろう」などと言うサドっ気は、今は持ち合わせてはいない。その箇所はそれきりにして、今度は雁頸を握り、根元に向かって扱いた。
「はっ！ああ〜ぅ」
レナが芝居がかった事はしないのは判っていたが、その声はかなり色っぽかった。
何度か、軽く扱いてみる。小陰唇裏の海綿体にたいして低周波が上から下へ刺激を走らせている筈。レナは下唇を弄ぶように前歯でかみ締めながら、耐えている。今度は亀頭から根元へと扱き降ろすミーナ。レナは体全体を反応させ頸を仰け反らせた。
ミーナが手を止め、レナは何とか頭を前に起こす。そして、さっきと違いすっかり屹立勃起した自分の下腹部のものを目撃した。
「やっ、嫌ぁ」
小さな悲鳴を上げた後、急激に赤面するレナ。自分の性器が欲情していることが丸判りである。まるで、フラグを立てるかのように。
目を大きく見開いたまま、レナは何かを誤魔化すように喋りだす。
「男の人って、こっ、こんな感じなの？」
ミーナが応える。
「う〜ん、性器の構造が根本的に違うから、100％は無理だけど、体感的にはかなり再現出来てる見たい。だけど、オーガニズムとか脳の働かせ方自体が男女でかなり違うからねぇ」
急に会社意識を甦らせた美月が口を挟んできた。
「将来的には、ブレインインターフェース技術とのコラボ製品も見据え、研究開発中なんで、体験の質は今後もっと向上させて行ける筈です。より、リアルに……」
美月の解説に、一瞬、姿勢を凍らせていたミーナだったが、急に悪戯を思いついた。
レナの股間のものをムンズと掴むと、素早く俯く。
あっけに取られる二人を尻目に、亀頭の先端を舌の先端でレロレロやった。
「はうっ！」
酋長の挨拶のようなその悲鳴に、ミーナが笑い、美月も噴き出した。仕方なく釣られ笑いするレナ。
ミーナの後方で、ヒールの踵を響かせる音が鳴った。
「そこっ！まだなの？何時まで掛かってんの」
険悪な台詞を耳にし、ミーナは直ぐに振り向いた。そして、このイベントのマスターであるケイに向かって、つかつかと歩み寄る。
後輩の癖に、パメラ人脈だと言う事を加勢にし、ミーナに対する態度が少し生意気だった。
ミーナは右拳をケイの顎の前に突き出した。そして人差し指を鉤型に立て、自分の顔を指差す。
「それ今、私に言った？」
露骨に唇を引き攣らせ、犬のように歯を剥くミーナ。
「えっ！ごめんなさい。そう言うわけじゃ。ちょっと緊張してて」
素直に、謝ると思っていなかったミーナは、ケイを抱きしめた。
「はじめちょろちょろ中ぱっぱって言うの知ってる？物事には時間と加減があるのよ。おいしくご飯を頂きたかったらもうちょっと腰を落ち着けて掛からんと、私もちゃんと協力するし、これがチームで最後の仕事やから……」
ケイもミーナを抱きしめ返して来た。