昨夜、パメラが部屋を出る時、アキラも一緒にどこかへ連れ出された。切なかった。
レナは、ミーナと一緒に隣室でシャワーを浴びた後、バスローブを着てホストエリアにあるスパ施設に向かった。その時にはもう日付が変わっていたかも。
調教イベント後は、優しく友人のように接してくれたミーナ。二人きりでジャグジーに浸かり、瞑想を促すようなターコイスの夜景（CG）を眺めながら、彼女も初めはレナと同じ立場だった事を打明けてくれた。その事は、なんとなく知っていたレナ。
彼女はレナへの共感を仄めかしながら、浴槽の中でレナに色々な姿勢を促し、背中や腰、太ももをマッサージしてくれた。そんな親切は、今後のイベントを問題無く進行させるためのメンテナンスであると思うと、ミーナの下心が透けて見えるようにも思えた。でも、同性の恋人のような優しくも力強い指使いが、レナの心を怪しく解してしまった。
Privacy protection Status 0のイベント用監獄に放り込まれるかも！と言う不安は、いつか頭の中から消えうせていた。ミーナの部屋に泊めて貰い、ひと時の安心感が得られた。サラがしたように、性的な行為を要求されることもなかった。そのことについて、彼女からの助言か共通認識を得たかったが、今は心にわだかまりが在った。親密さが増したとは言え、ゲーム上、ミーナは敵方であり、それに彼女の性癖にしてもまだ何も知らない。ひょっとしてサラと同じなのかも。
午前中は、ミーナとフリーの時間を過ごし、今は彼女の部屋で食事中だった。食欲がないと言ったレナに、ミーナはシリアル類や、ミルク、ヨーグルト、小物のサラダ類を幾つかオーダーしてくれ、二人で摘まんだ。適当なようだが、レナに強いられる今後のスケジュールと体調管理をしっかり配慮してる感が見て取れる。でも、それは肯定的に捉えるしかレナには選択肢がない。体調不良であれ、ルール違反即ち契約不履行を発生させてしまったなら、直ちにチームの報酬の減額或いは、自分の報酬の帳消しが行われる。プレイヤー、特にリーダーにとっては、自分がここで過した時間と成果に対する対価は、長期設定された売り掛け金であるとも言えるのだ。やり遂げねば、報酬は手に入らないシビアなビジネスだった。遊び気分が残っていたひと月目位が懐かしい。今となっては遠くに来てしまった気がする。砕いたナッツを塗したセロリ？をフォークで口に運びながら、思わず、鼻息をもらした。ミーナがレナの表情を気遣って、訊ねてくる。
「どうかした？」
レナは、調度好いタイミングと思い、答えた。
「結局、満腹になるまで、食べちゃった。ご馳走様」
ミーナが真顔で、レナに言う。
「そうよ、食べなきゃ。お互いタフに行こっ！」
確かに彼女は、ペナルティーゲームと言うシステムに虐げられたプレイヤーとして先輩なのかも知れないが、今はその台詞に当事者感は全く感じられなかった。
少し遅れて、別の部屋でも食事時を迎えた二人が居た。
負けプレイヤーに男勝りを隠すのは癪に障るので、歯磨き洗顔を代わる代わるほぼ同時に済ませ、ついでにシャワーも先に浴びて出て来たパメラ。あれっ！とおかしな違和感を感じた。威勢を張ろうとした意に反して、まるで、マサトと同棲してるみたい。
満更でもない気分を感じながら、シャワールームに向かおうとする自分の捕虜に声を掛ける。
「お昼何にする？」
これから数々の調教とイベントをプログラムする責任を負うパメラとしては、言わば出演者である負けプレイヤーの精力をしっかり維持してやる必要がある。亜鉛やアミノ酸がたっぷり含まれたドライフルーツ類をミックスしたシリアルとジュース、パメラ達が「発射オーライ」と呼ぶオリジナルのメニューを食べさせようと目論んだ。性衝動を抑えきれない状況に相手を陥らせるのは、調教プレイを成功させる為の有効なアプローチのひとつ。
彼女は彼に提案した。
「食欲なければ、シリアルとかサラダにする？」
それが30分程前……
そして今、当の負けプレイヤーは、牛の分厚いステーキにナイフを付きたて、ガッ付こうとしている最中だった。
彼と向かい合う席のパメラ。彼女は、リラックス効果のあるリーフ類のサラダを前に、テーブルの上に左肘をたて、自分の顎を支えながらその様子を眺めていた。
バジルの一片を指で摘むと、柑橘系のドレッシングに先端を浸し、口に運ぶパメラ。彼女はウサギのようにそれをチビチビ齧りながら、マサトの顔を見詰める。もぐもぐ肉を食む彼の口元を見やり考えた。まあ、自ら精を付けてくれるならそれに越したことはないけど。
ただ、気掛かりなのは、彼が自分の立場を気軽に考え過ぎていないかということだ。マサトとアリエスとの絆が思いのほか薄っペらいものだった場合、最悪リタイヤする可能性も無くはない。その点、レナとアキラの絆には安心感がある。まあ、その哀れな二人の絆でさえ、プレイの慰み者にしようとしているパメラではあったが。
懸念を少しでも和らげようとマサトに問いを投げかけて見た。
「あれからアリエスとした？」
マサトの眉がピクリと吊り上った。
「あなた。アリエスのおま○○、大分使い込んでるでしょ。私、半時間も奴隷の体を弄れば判るのよね……」
「あなた達が普段どんなセックスしてるか位！」
マサトは肉の咀嚼を止め、上唇を吊り上げた。
パメラは、唇の端に悪戯気な笑みを浮かべ、挑発を続ける。
「他にも色々開発しといて上げたから、これから楽しみね！」
マサトが口を半開きにし、歯を食い締めたまま、何か言った。
「あのビデオは？」
顔を顰め、わざと聞こえない振りをするパメラ。
マサトが問い詰めるように言う。
「やらせたのか？あの男と」
シンプルな心の持ち主のようだとの感触を得、彼女はこれからのプレイが凄く楽しめそうな期待に胸を躍らせた。
ほぼ齧り終えたバジルの茎を二本の指の間に挟みながら、チッ！チッと左右に揺した。そして質問者に自覚を促す。
「それは、アリエスに直接聞いて頂戴！」
「ムービーコラージュだったら良いのにねぇ」
彼女の後の方の発言に、希望の光を見出したのか、一瞬マサトの瞳孔が大きく開いたように思えた。
パメラは満面の笑みを浮かべながら、マサトの表情を窺う。まるで彼の希望を奪い、何かを煽るように。
「アリエスは見かけに拠らず、淫乱なんじゃない？」
マサトの眉間に、炎のような皺が浮かび上がった。怒りの影をメラメラと滲ませている。
なるべく抑え気味な表情を取り繕おうとする意図は読み取れたものの、パメラを睨み付けるマサト。
パメラも睨み返し、そして台詞を続けた。
「うまく行けば、アリエスとあんたをもっとディープなセックスを楽しめるカップルに調教して上げるわっ」
マサトに顔を近づけさらに言う。
「期待してて……ねっ！」
そういい終わった瞬間、ピリピリッとテーブルの震えを感じた。マサトが震えた？怒り？否っ！経験則から言うと、彼女にはそうは思えなかった。
生理的な震え、彼の潜在意識に潜む性的で貪欲な何かが成長し始めた瞬間なのかも知れない。本人は意識してはいないだろうが、そうであって欲しいと願う女王であった。
睨めっこは暫し続き……
マサトが先に挫けた。パメラの目の前にフォークを突き出し、グサリと刺さったステーキの一片を旗のように掲げる。
「食べる？」
彼女は一瞬、たじろいだ。しかし、微かなガーリックの香りに鼻腔を擽られ、子犬のように、パクっと食いついた。
「おいしい？」
尋ねられ、もぐもぐしながら図らずも自然な笑みを返してしまった自分に「このっ！」と腹が立ち、業ときつい口調でマサトに注意する。
「あなた、もう一度、しっかりブラッシングするのよっ！肉の食べかすが歯に挟まった奴隷なんかとプレイするのシラけるんだから！」
憎まれ口の一つでも帰ってくるかとの彼女の予想に反して、子供のようにコクンと頷くマサト。
懐かしい乙女心のようなものが豪く久しぶりに甦り、胸がキュンと鳴ったその直後。ぴりりっと、尿意のようなものが彼女を振るわせ困惑させた。ブルッと体が震えそうになるのを抑えるのが大変。
「この男子と早くプレイしたぁーい」
心の中で叫ぶパメラだった。