マサトは、素っ裸。上面ガラス張り、正方形のお立ち台のような代物の上に立たされている。パメラは「この部屋はPPS5だし、まだこれはイベントじゃないから安心して！」などと、気楽な台詞を吐いていた。何か100万以上する専用のスーツを作る準備だとか言う。
天井のユーティリティーディスクには、部屋のスペース内で回転し得る直径で3メートル位のＸ字形ハンガーが取り付けられていた。四方の先端には3Ｄスキャナーがぶら提げられている。
縦にスリットの入った四本の棒状スキャンユニットから等距離。彼はその中心地点で、指示に従い様々なポーズを取らされていた。自分が載せられている硬質ガラス面に足型が投影され、『新手のツイスター？』、その足型に両足を合わせる。すると、今度は上半身のポーズを指示する3ＤＣＧが壁に投影され、それを実演する。「ＯＫです」のアナウンスは自動で流れた。
自分だけがマッパで、パメラはもう黒と赤のプレイ用衣装を着ている。何よりも気になったのが、パメラと二人きりなのでは無い事。整体師のような制服を着たプレイヤーらしからぬ第三者の女性が居ることだ。操作用ヘッドセットを付けたオペレーターの女性。部屋の端で、時折、自身の眼前で手振りしながら、システムの操作進行を管理している。表情も見せず作業を事務的に進めているかのように見えるが、時折チラ見されているように感じるのが悔しい。
幾つかのポージングを済ませた。てっきり、立ポーズだけのスキャンかと思っていたものが、その期待は裏切られた。とうとうガラス面に手型が投影され、四つん這いの指示が来た。マサトはさっきから息子が半ば勃起していることを気にかけている。パメラが背後に立っているため、その事は、なんとか弄られないですみそうだと高を括ってもいた。でも、このままではパメラにお尻の孔まで晒す羽目になりそうだった。いたたまれず口を開くマサト。
「これって、羞恥プレイかなにかだよね？」
パメラの鼻息が聞こえた。
あっ、しまった。藪蛇だったと思った時には、もう遅かった。ヒールの踵の音を立て、パメラが左手に近づいてきた。
「違うって、言ったでしょ」
そう言うと、ペットの傍らに跪くように屈みこんだ。
まずい、気付かれると思うと、意思に反して、余計に勃起度が上がった。
「あっ！あんた。起ってるジャン。Ｍっ気あるわねぇ」
今になって、大判のステーキを昼食に選んだ事を後悔した。精の付きそうなスパイスが激しく効いたその味を、何故か思い出す。隠しておきたい部分が脈打ち始め、マサトは顔を顰めながら沈めようと努力した。床面のガラスの下をスキャナーが移動するのを観察するように見詰め、健気に努力する彼に次の指示が来る。
頭を床に突いて、大きく腰を上げるポーズを指示された。一体こんなポーズにどう言う意味が含まれているのだろう。
ある意味傍らにパメラが移動してきていたことは幸運だと思った。しかし期待は裏切られ、パメラは意地悪にマサトの背後へと移動する。
「ふ〜ん」と、なにかを観察するように呟くパメラ。
再びいたたまれなくなったマサト。
「あの〜、凄く恥ずかしいんだけど」
「えっ！」パメラの芝居がかった驚きの声。そして脅しが入った。
「あんた、そんな事いってると1時間後には涙流してるわよ……」
ここにきて、昨日パメラの申し出を断ったことを強烈に後悔した。パメラを抱いて組み伏せ、そのことに対するアリエスへの申し訳は、後日考えることとし、ゲームの駆け引きでの優勢を少しでも考慮しておくべきだった。このままでは、立ち直れない屈辱を味あわせられそう。でも果たしてパメラをベッドで征服することが本当に出来ただろうかとも思う。どうやらヒールを履かなくても、パメラは自分より背が高そう。過去に、パメラ位の体格そして雰囲気の娘とベッドインし、少し苦い経験をした覚えもある。
更に五つほどのポーズを撮られ、終了の宣言が出た。
勃起したそれを手で隠すのもなんだから、仕方なく仁王立ちするマサト。パメラはオペレーターの女性に業と聞こえるように、彼に注意した。
「先っちょ、大丈夫？濡れてたなら、彼女に拭いてもらわないと行けないし……」
オペレーターの女性が微かに顔を赤らめた。マサトは慌てて、亀頭を確認し、オペレーターの顔を見返す。その時にはもう彼女が顔を逸らしていた為、自分の顔が彼女以上に真っ赤になっていることを気付かれずに済んだ。
微かに咳払いをしながらオペレーターが言う。
「次はあちらで、お願いします」
ターコイスのホストエリアの特徴である縦型のオーバル形ゲートを潜り、隣室へ向かいながらパメラを詰る。
「バスタオルかローブくらいくれない？」
パメラは自分の股間を両手で押さえるポーズをして見せ、こう言った。
「こうしときなっ！こうっ！」
同じ仕草を繰り返すパメラ。プレイの予行演習なのか、だんだんと冷酷さがエスカレートしてきてる気がする。
「彼、調子よさそうだから、チンチンから先にスキャンしようか」
パメラにあからさまに自分の持ち物の事を議題にされ、再び赤面するマサト。そして。オペレータさんもパメラの悪乗りに感情が揺さぶられだして来たよう。はにかむ様に表情を歪めている。
座高を測るような椅子に座るよう促された。椅子はまるで、便座のような形状で、股の下にウォシュレットのノズルのようなカメラ？が覗いている。頭の上の支持棒は、座高を測るものではなく、上から箱状のユニットを吊り下げるハンガー的なものだった。
オペレーターが手術前のように極うす手袋を両手に嵌める。マサトの目の前をコンドームのようなものがひらひらと横切った。透明の生地に、黒い網戸のメッシュのような物が隈なく広がっている。
「今から、これ付けるから」
パメラがそう言うと、ここ1年以上アリエスにしか触らせたことの無かったプライベートな部分を、今日始めて遇った見ず知らずの女にいきなり掴れた。なにやら軟膏のような物を塗りこめられている。下向きがちになり始めていたペニスは、再び充血し始めた。
パメラがオペレーターにコンドーム？を手渡す。マサトの一物を道具を扱うように手馴れた手付きでグリップするオペレーター。
「嵌めますね！」
彼女はそう言い、マサトの陰茎を包み込むように親指と人差し指を走らせた。ゴワゴワしてきつい。
パメラは続いて、同じような素材で出来たホオズキの果実のような形のものを渡す。
それを受け取り、オペレーターは、マサトの陰嚢にキャップを被せるかのように装着した。
「それフレキシブルな圧力センサー付いてるから」
パメラがそう言う傍らで、マサトの陰茎の根元が引っ張られる感触が在った。プチッ！とした感じの感触が2回有り、なにやら、コネクターのようなものを繋がれたよう。
「じゃあ、フル勃起から始めようか！」
パメラがマサトの左側から真顔で覗き込んで来た。
「スタート！」
オペレーターがそう言い、マサトは「うわぁ！」と心の中で叫んだ。陰茎と陰嚢がギュッと絞られたのである。
ギュッとした感触は直後に緩み、圧力は徐々に弱まっていった。
「あれさっきまで元気だったのに、縮んできたじゃない」
傍らでマサトの股間を覗き込むように屈みこんだパメラ。彼女はそう言って、亀頭を指先で弾いた。そして、左手で陰嚢を転がすように弄び出すと、右手で雁周りの敏感な部分を強弱つけて扱きはじめた。
「ほらほら、頑張れ！」「なんならオペレータさんのお○○この匂い嗅がせてもらうおうか？」
パメラの悪乗りな発言にギョッとしたオペレータさんが、唾を飲み込む音。マサトは聞こえた気がした。
女達の体が放つ妖しくブレンドされたフェロモンの匂い。マサトの鼻腔を介して掻き乱すように脳内を侵して来た。女の放つ熱気に誘われ、思わずオペレーターの横顔を遠い気分で眺める。頬を赤らめたその表情は意外に可愛らしかった。
脈打ちギンギンに勃起するペニス。
「ＯＫ！」
ヘッドセットの右グラスに映る表示を確認し、オペレーターはそう言った。
「エッ！いいの。マサトのこと好みだって言ってたもんね！」
とんちんかんな返答を返すパメラ。でも、理性レベルが低下した今のマサトにとっては、さっきパメラがした提案を実現して欲しい気分だった。オペレーターが凄く可愛く感じられたし、出来たら絶頂を迎えさせて欲しい。
彼女は軽く咳払いし、「いや計測がＯＫと言う事です」とキッパリと言った。
「残念ね」
なおざりにそう言うパメラ。彼女はマサトの顔を見上げ、また無茶なことを言ってきた。
「じゃあ、今度は縮めて。判るでしょ？しぼめるの……萎えさせるのよ！」
そう言うと、立ち上がりマサトを見下ろすパメラ。
「誰か嫌な知り合いの顔でも浮かべて、ほら、時間も残り少ないから早く」
思わず心の中で「どんだけー……」と呟く。
過去の失敗談を思い出した。パメラと印象が少しダブる過去のガールフレンド。ベッドの上で、腰を振り振り、自分ではいい感じだと思っていたのが、突然彼女が呟いた。「往けないの？」と。
その時、彼は心の中で叫んだ。
『ええっ？往けるとか往けないとかはお金の絡んだ時に言う言葉、今の俺にはいっそ……』
その数ヵ月後に別れた経緯などを思い返すと、自然に萎えてきた。
オペレーターの「ＯＫ！」の言葉を聞いた時、我に返った。そこで初めて、自分の目の焦点がパメラの顔に合わされたままであることに気づいた。そして、彼女は鬼の形相に成った。
「嫌な知り合いって私かぁー？、あんたそんな格好で根性あるね、覚悟しときなさいよ」
そんな二人のやりとりを、オペレータさんは明らかに、わざと無視していた。