テーマパークの虜達 【33】
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留守を頼まれた彼は、未だ夢から覚めやらない気分だった。途中まるで、別の女を抱い
ているような気になった。彼女の中の獣が目覚めたかのようだ。アリエスはどうしても単
位を所得しておかなければならない講義があると、中休みの手続きを採った。マサトとま
る一日激しく愛し合った後、何かケロリと忘れたような表情になって、日常の思考を取り
戻したように。あのまま捕虜になっていたら、危うく卒業を逃すとこだったらしい。出た
とこ勝負みたいなところが彼女の魅力のひとつではあるが。少し呆れた。
そそくさとこのゲームステージを出て行ったのは彼女にとって、照れ隠しだったのかも
しれない。
インフォメーション端末の前にすわりながら、背筋を伸ばして見る。性欲がまだ蘇らな
い。アリエスと2日程会えないことを体が自覚しているのか。今までになく、彼女に注
ぎ込んだ或いは注ぎ込まされた情欲の量と質がデカすぎたのか？多分、両方だろう。それ
に戦況も思わしくなかった。
既に電源が入ったディスプレイ。中央のウィンドウには、アリエスとマサト達が基地を
置く惑星サボライトの濃い緑色の球体が映し出されている。戦況を示す左側の青いボタン
をクリックする。ウィンドウが開いた。このゲーム世界で起こったトピックが、見出し形
式で羅列されている。
アリエスの奇襲
アリエス捕縛
…
アリエス開放
…
レナ、惑星ターコイスで遭難
サラ軍レナの平時捕虜扱いを宣言
アリエスの指導者代行をマサト以外のチームメイト名で発表したことで、アリエスと自
分が二人同時に休暇を採ったとの観測が巷で流れているが、残って正解だった。レナ軍の
Ｎｏ．３が指導者代行となったものの。同盟軍の先行き不安は拭い去れない。新たに同盟
が成立したワンダー軍も、経済力を背景に回復力優勢なパメラ軍の前にどれだけ持ち応え
られるか？それにしても捕らえられたのが、アリエス側でも、パメラ側でもない惑星ター
コイスのリーダーだったことは、彼をひとまず安心させた。コックピットで過ごしたレナ
とのひと時が脳裏を過ぎった。助けを待っている筈だ。
画面左上で小さくなっている青いコミュニケーションバーが白く点滅している。画面を
開き、メールボックスにマサト宛の密書が届いているのに気付いた。手に持った卵型マウ
スの目玉に自分の指紋を照合させた。
「アリエスの保護者様へ」と件名にある。
添えつけファイルが在った。「これは、再生後消滅型の動画ファイルです、当人以外決
して開かないで下さい」とアナウンスが現れた。むかっと来たのと好奇心が彼の気持ちを
後押しして、再生ボタンを押さしめた。試着室のような一室が画面に現れた。音声は無か
った。
まるでいじめのような光景で、女が裸にされていた。女達に下着を脱ぐことを強要され、
パンティーは無造作にその手から取り上げられた。代わりに薄い水着のようなものを手渡
される。全裸にされた彼女は、その薄っぺらな衣類で何とか見られたくない部分をグルー
プの視線から守ろうとした。バスタオルを抱きしめるかのような仕草で、勝利者達の次の
指示を伺う。その哀れな表情がクローズアップされた。アリエスだ。
戦闘を仕掛けた側の捕虜であるアリエスが酷い目に遭わされていたことは、想像してい
た。しかし、こんなに無理やりあの衣装を着せられていたとは、彼女からは聞かされてな
かった。
画面が変わり。一度しか見れないと言う条件が彼の身を乗り出させる。
戦闘時に憤慨を覚えた破廉恥なシーンに加え、公式に流された形跡の無いシーンが織り
交ぜられている。性器丸出しなもの、バイブが挿入されたもの、明らかに興奮し愛液の分
泌したもの。一部には、アリエス本人と確認出来るものもあったが。場面がめまぐるしく
変わるのがもどかしかった。アダルトビデオまがいの事をされたとは聞いていたが、ここ
までハードとは。彼女を取り囲んで悪戯して居るのが女性達であるのがせめてもの救いで
あるが、これは男の勝手な言い分である。
もし、パメラ達が地下でこれを流したらどうなるか、考えるだけで頭に血が上った。
今すぐにでもアリエスをもう一度抱きしめ、ベッドの上で確かめたいことが一杯溢れ出
てきた。昨日までは、慰め会うので精一杯だった気がする。
場面は変わり、コックピットらしい場所が映し出された。部屋に居る女の視線らしい。
おそらくヘッドセット式のカメラだろう。目隠しされた男の頭越しに、白いボールの猿轡
をされた女が全裸で立っている。猿轡位で見間違う筈はない、アリエスだ。視線の主は、
彼女に近づき、観察した。背を丸め萎縮するアリエスの胸は可愛そうに垂れ気味に映った。
今度は背を屈め、子供の顔を見上げるように、項垂れるアリエスを見る。虚ろな目の彼女
を呼び起こすように、女の手は、乱れたアリエスのアンダーヘアを掻き分け、攻め始めた。
怯えた陰唇が右に左に引き摺りまわされる。女の手が今度は男の下半身に向けられ、黒い
ズボン越に男性器を握ったりした。マサトの胸に怒りのようなものが込み上げて来る。女
の視線は、男の顔に向けられ、アリエスの股間を散々弄んだ指先をその男の鼻面に押し当
てた。一度会い、数回プロフィール画像を見ただけだったが、アキラであることが確信出
来た。自分の愛する女の秘められた体臭が他の男の鼻腔に晒された悔しさが込み上げてく
る。そんな彼の心の動きを予想したかのように場面は変わり、プレイヤーがキャビンと呼
ぶ多用途な部屋が現れた。シミュレター全てに備わるコックピットの後ろの小さな空間で
ある。信じられないシーンがそこに展開されていた。アキラが裸の女の腰を抱き、行為そ
のものを行っている。目隠しは取られ、その目は射精を我慢しているかのように見えた。
後背位で、アリエスらしき女の腰を無遠慮に突きまくっている。視線の女が、身を前後に
揺らすアリエスの頭を持ち上げ、微かに横顔が見えた。少し柔らかみのあるアリエスの輪
郭。食いしばる口元が一瞬見えたが、歯並びまでは覗えない。すけべな監視者はアリエス
達の結合部分もクローズアップした。もはや泡立ったそこ。粘膜も滑らかに男根を受け送
りしている。全てが挑発的な映像。ただアキラのペニスにオーソドックスな色の避妊具が
認められたことには微かな安心を覚え。そしてそんな自分に腹がたった。恋人の肛門まで
アキラの目に晒され、自分以外見てはいけない光景を他人に侵害された。怒りに身が震え。
そんな中でも、冷静な自分がいて、明るいところでアリエスを後ろから抱いた時の光景と
照らし合わせ、目の前のショッキングな出来事を否定しようとしたりする。詰まる所、彼
の男心は、抱かれている女性がアリエスでないと証明できるほんの些細な証拠でも見つけ
ようと記憶の海を彷徨っていた。排泄器の皺の数でさえ確かめたい気分である。あいにく
シーンはますます断片的になり、彼の注意力と観察力を翻弄した。顔が見たい。胸の形か、
全身のラインだけでも。精神力が限界に達した頃。ビデオクリップはアキラが射精に身を
振るわせるシーンで終わった。卵形のマウスの外殻がメキリと音を起て、砕け、マサトは
知らない間に、床の上で横たわっていた。黒い天井を見上げる。アリエスの帰りを待つべ
きか、レナを救いに行くべきか。まるでシェイクスピアの一節のように頭の中で反復され
ていた。