テーマパークの虜達 【34】
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パメラ達のいいなりに為りながらもあのことには、罪悪感を感じた。奴等は、一体どこ
でタイミング良く或いは偶然にあの娘を見つけてきたのだろう。バスローブに裸身を隠し、
アキラに会釈したその娘は、上品な感じだった。親しく素性を語り合う機会もなく二人は
本番を演じさせられた。また会えるだろうかと心残りな自分がいい加減な人間に思える。
不本意な経緯にも関わらず、温かくまた素直な脈動で彼を迎え入れてくれたあの娘の優し
さを愛しいと感じるのは悪いことではない。生々しい体験には嘘を付けない。だけど説明
も出来ない。ただ今、おそらく彼の所為でレナも何処かで囚われていると言う事実が、ア
キラの心の整理を迫るのだ。ゲームの戦況がどうなっているのか、パメラ達はアキラには
まるで教えてくれない。レナのチームがどうなったのか、アリエス達の動静がどうなのか
詳しいことはまるで聞こえて来なかった。ただ、注意事項と命令だけが彼に伝えられる。
「毎晩ここで、来場者の中から、参加を募ってやってるイベントだから、誰も貴方とは気
付かないわよ！」
暗いホールの控え室のような場所で、パメラはそう言った。1960年代アメリカのラブ
バラードのような曲が聞こえている。「私の指示通り動くのよ。間違っても逃げたりしな
いで」アキラが唯一身に纏わせて貰っている白い光沢のあるビキニブリーフの前の膨らみ
を、確かめるように掌に包み込むパメラ。「こんな格好でゲストエリアの外には出たくな
いでしょ？」パメラの方手がアキラの耳に触れた。スポンジ状の耳栓がされる。そしても
う片方。「これまでのプレイヤーとしての稼ぎを棒に振る気もないよね？」彼女の、生身
の最後の声を聞いた後、頭に小さなヘッドセットを嵌められた。パメラ自身も、髪の中に
隠れてしまいそうな肉付きのないシンプルなヘッドセットを頭に装着する。パメラが、ピ
ーチボールが萎んだようなパールホワイトの塊をアキラの目の前に突き出した。
「マスクよ」。
自分の血液が流れる音と心臓の鼓動だけが聞こえる世界に、それはまるで幽霊の声のよ
うにアキラの頭に侵入して来た。
「貴方のプライバシーを守る最後の砦」
アキラの視界が一瞬覆われ、マスクが被された。パメラはその言葉を裏付けるかのよう
に、しっかりとマジック式ファスナーを閉じる。大体の位置を調整した後、アキラの目を
正面から見据えた。目の辺りはストッキングのような薄い生地で外が見える。裏地はスポ
ンジのような膨らみのある素材で、ゆとりのある装着感だった。
アキラのこめかみの辺りを軽く押さえながら問いかけるパメラ。
「どう、きつくはない？目は見える」
パメラの瞳が間近に迫ったが、マスクの中のアキラには、外の日常性が僅かにぼやけた
感じがしていた。今のパメラは、昨日の女王様然とした口振りでなく、お姉様風に思える。
二人きりだからなのだろうかとも思ったりする。
アキラははにかむ子供のように軽く頷いた。
「ドラマチックなステージだもの準備は万全にしないと」
こんな格好を強いられて、何が万全なのかパメラに問いたかったが、態度に表すのは控
えた。
そんな彼の心を見透かし、覚悟を促すかのように、彼女は言う。
「そろそろ時間よ！貴方の進む方向は、あっち。私が出なさいと指示したら、出ておいで」
扉の向こうから灯りがもれ、彼を誘うように時折瞬いた。
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観客席と正面のステージを見下ろすブースの中、イヴは言った。
「あいつ出てくるかな」
パメラが応える。
「よ〜く言い聞かせたから大丈夫。初め少し反抗的だったけど、あっと言う間に従順にな
ったわ」
「どこまで授業を進めたことやら」
イヴは窺うようにパメラの横顔を見やり。そして呟く。
「私の獲物だったのに」
そんなイヴの恨み言、パメラは聞こえないかのよう。
「アリエスのようなだだっ娘をしおらしくさせるのも面白い。けど、この子達みたいな迷
える子羊を強引に導くのも楽しい」
これから始めるイベントのモチベーションをイヴに確認するパメラのまなざし。
「結果的には、あの子達を悦びの世界に導いてあげたいよね？」
問いかけるパメラに、悪戯っ子のように笑み、イヴは応えた。
「アリエスは、もう一度捉まえてあげないと、ダメな経験になるかも。将来、ヒステリッ
クな厭なおばさんになっちゃうかもよ！責任感じる？」
不敵な笑みを浮かべパメラが返事した。
「勿論！好い女王様は責任感も強いの！」
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「早く出て来な！！」
パメラの怒声が頭の中で響いた。
一回目の指示に、別に反抗するつもりはなかったが、人の気配がする扉の向こうがどん
な状況であるかも判らず、飛び出る勇気が持て無かった。と言うか、足が竦んで、椅子か
ら立ち上がることが出来ない。
「起つことも出来ないの！」
まるで、監視しているかのような台詞。て言うか、やはり何処かにカメラが仕掛けられ
ているのだろうか？
「ぐずぐずしてるとフリチンにして、ステージに引きずり出すよ」
パメラの語彙の強さに驚き、気をつけをするかのように立ち上がるアキラ。
お店のお客では、こうは行かない。本気でびびっているのがいじらしい。
モニターの中のアキラは、椅子から起ったもののまだ立ち竦んで居る。
「反対の扉の向こうには、私の親衛隊がいるわ。あなたよりずっと腕っ節の強い連中よ。
なんなら手伝わせてあげるよ」
その提案に恐れをなし、扉に向かって一歩歩む彼。
「そう、そう。いい子……。私達にブリーフずらされるより、男の子達にずらされるほう
がもっと惨めだものね」
「さあ、ひきこもってないで出ておいで、あなたには、マスクがあるじゃない。恥ずかし
さは克服出来る筈よ。もっと素晴らしいプレゼントをあげるから……」
頭の中で悪魔が囁くかのようなパメラの声は、アキラを根気良く説得し続けた。