テーマパークの虜達 【41】
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クラスメイト曽和一成の部屋で、光は聞いた。
「イッセイはどう？本当にそう思う？」
「レナの捕まった場所や時間考えるとね！」「あと、パメラのチームの動向、サラの対応
もおかしいし」
始め、キャンパスで別れるつもりだった光は、大学近くの喫茶店で提出物や単位取得の
ポイントを彼に詳しく聞いた後。ゼミ仲間の最近の動向やキャンパスでの出来事を聞く内
に、すっかり心打ち解け、追加のレジュメ類を貰ったり、更に重点を押さえるためもあっ
て、彼の部屋にお邪魔した。卒論提出だけでは卒業出来ない事態をなんとか回避出来そう
な感触を得て、少しほっとした。年頃の女の一年は短いのだ。留年なんてとんでもない。
彼の作った爽やかな口当たりのカクテルをちびちびやりながら、自分の事を少し話して
みる気になった。でもすでに、予想していたことでもあったが、彼女がウォーゲームの世
界でアリエスを名乗っていることを彼は承知していた。寧ろその話題を待っていたかのよ
うにも思えた。外の世界から巧みに遮断されたテーマパークのプレイ施設では、ゲームの
展開や全体像が見えにくい。プレイヤーは基本的に見られる側の存在…
ネットに詳しい一成は、光に幾つかの関連コンテンツやビデオクリップを見せてくれた。
フロアテーブル上のノートパソコンの前に光を座らせ、自分は、傍らのローソファに座り、
コードレスのマウスを操った。
刺激的な映像が展開する。彼は、昨夜のショー映像だと言う。
「ひょっとすると、サラのチームは、パメラの傀儡かも」
光の脳裏に一抹の不安が過ぎる。でも彼女の眼は画面に釘付けだった。
卵のようなキャップを被らされた二人が、裸で愛し合っている。始め、ぎこちなかった
彼女達は、熱が入りだしたのか、激しく抱擁し始めた。
「直接、会ったことあるんだろ？」
光の脳裏に悔しい場面が蘇って来た。恋人でもないのに私の裸を見た男。でもアキラは
身代わりになってくれた。複雑な感情が彼女の心を掻き毟る。アングルが変わり、男の睾
丸が女性を急き立てるように叩く。光はどぎつい映像に、「うわっ」と小さな悲鳴を上げ
た。嵐に乱れたような二人の陰毛。黒々としたその狭間で、充血した襞が時折男性器に、
纏わり付く。無様に震える筋肉。「セックスて、所詮こんなものか、」と思わせる映像。人
間が獣に見える。汚く悪趣味に思えた。でも体の奥底で、何者かが騒ぐ。ふと、一成が何
か言ったことを思い出した。でも応えるような間合いは過ぎている感じがした。また視点
は換った。男の胸板の下で女の白い胸は、フライパンの上に落とした生卵のようにぶるぶ
ると震えている。女の顎のラインと半開きの唇が見えた。牢獄から助け出されたとき、扉
の外に立っていたレナの顔を思い出してみる。あの時微かに腹が立ったことも思い出した。
あの感情は何だったんだろう？やきもち？それとも自分だけが酷い目に遭って、彼女が
悠々としてる事に悔しさを感じたのだろうか？もしこれが本当にレナだとしたら、今は、
立場が逆転している。光の胸にやましさのようなものがこみ上げてきた。レナ達は自分を
助けてくれようとしていたのに！
レナ？の両足は、溺れる人の両手のように、白い天井に向かい踊った。何かに憑かれた
ように上半身を揺らせる。首は仰け反り、背がマットから離れた。女が往く時、こんなに
もガクガク震えるものだろうか？！マサトの体の下でシーツを握り締める自分を思い出し
て見た。光の頭を鷲づかみにして往く彼の癖。マサトが恋しくなった。欲情しそうな気分。
体が火照った。でもここが一成の部屋だと自覚しなければならない。アングルはまた換り、
男性のヒップは、押し合わされたように引き締まる。女性の尻の谷間には、濁った液体が
垂れていた。
光は、「アングラで無修正画像が大量に流れてるよ」と言う一成の言葉を、思い出した。
このゲームにエントリーし、契約書にサインした時、幾らかの覚悟はした筈だった。でも
現実にそれに接した今。光は激しい恐怖を感じた。こんな姿を世の中に晒されたなら死に
たくなる。カクテルを一口飲んだ。口に含んだ量は少量だったにも拘わらず、ゴクリとな
った。
「私のも探した？」
訊いてしまった。
一成は返答に困るだろうかとも思ったが、彼は即座に口を開いた。
「怒らないでよ」
光は彼を振り返ることが出来なかった。
そして一成が訊ねた。
「見る？」
声を出そうと思ったが、結局軽く頷くことしか出来なかった。そして、グラスを持つ手
が震えているのに気付いた。
ショートカットがクリックされた。処刑の執行を待つ囚人の気分はこんなものかと想像
した。もうこの事実から逃げられない、親しい男友達は、光の恥ずかしい姿を目撃し、し
かもそれを所有しているのだ。この数秒の待ち時間はある意味、敵に捕らえられ何をされ
るのかも知らないでいた無邪気な自分が、パメラと対面するまでの時間よりどきどきした。
動画が始まった。
パメラ達に囲まれている自分。レオタードは思ったよりすけすけだった。照明の加減に
よれば、乳輪もアンダーヘアの輪郭もまるで判る。酷い…。でもそれよりも泣き掛けの子
供のように震える唇が悔しい。もっと毅然で凛々しく振舞ったつもりだった。
そして、一分も立たない内に、レナ達？の映像を人事のように観ていた暢気な自分が馬
鹿みたいに思えて来た。
まるで、性的な実験用に供されたヌードモデルのようだ。アートの要素がないドキュメ
ント映像。光の日常の嗜みは、無残に破壊され、プライバシーは晒された。乳房の形も、
腋の下の皺も、お尻の形も、陰毛も、性器の細部も、色具合も、普段は流れ出ることのな
い分泌物まで。
自分でも詳しく見たことのない自分の恥部、そして様々なアングルで弄ばれている数日
前の光自身がそこに展開していた。同性に弄くり廻される自分の性器は、いじめっ子達に
見つけられ、なぶり殺しにされようとしている醜い生き物に見えた。本当にこれは自分の
姿なのだろうか？息も絶え絶えの紅い腔内が覗き、おえっと思った。
光の体を縦横無尽に弄ぶ女達の手は、終始彼女をいたぶる様に振舞うが、時には優しく
誘うかの様なリズムも奏でる。同性達の指の感触を思い出す。風が草原を舐めるように、
彼女達の爪の先端が光の敏感な皮膚や粘膜との境界をざわつかせた。光の存在を温かく受
け止めるように優しく乳房を握り締める掌の感触も蘇る。
恥骨の下側で神経を夏の蟲に齧られるような微かな痛痒感が走る。脳髄にも電気のよう
なものが走った。まるでパメラ達に魔法を掛けられたよう。あの時のことを思い出すと、
体のコントロールが利かない。体が火照り、現実感が遠のく。パメラ達は光をオーガズム
へと駆り立てるように攻め立てもした。それは明らかに同性による性的な暴力だったが、
彼女の肉体は失神しそうなくらいの絶頂を迎えたのを覚えている。
カーペットの上で、蒸れたお尻を動かした。濡れる股間に下着が纏わり付く、もし自分
の部屋ならカーペットに股間を擦り付けていたかも知れない。悔しくて悲しい感情は、い
まにも貪欲な渇望に飲み込まれそうで、苦しい。光はまずいと思った。うなじに、一成の
視線を感じた。一成の指先が光のアンダーヘアを掻き揚げるイメージが予知夢のように脳
裏に閃いた。