テーマパークの虜達　【46】
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　狭く暗い空間に一人立っていると、サラに散々愛撫された感触が蘇って来た。自分を捕
虜にした司令官はまるで、自分を意識の無い存在であるかのように弄んだ。実際、それま
での出来事がすんなりと受け容れがたく、心の中が整理不能になった彼女は、ベットの上
で生きる屍のような状態だった。彼女の上唇の裏側を探索するかのように、サラの舌が歯
茎の上を撫で回した。他のどんな人間にも動物にもされたことのないような接触。これか
ら、食べられてしまうのではないかと思うほど、顔中を嘗め回された。覆いかぶさってく
るサラの肌は、吸い付くよう。子供の頃従妹とお風呂に入って、抱きしめあったような、
原初的な抱擁の感覚。姿勢を保とうとする最後の力も奪い去られた。まるで他人が自分の
部屋で、我が物顔に振舞うように、彼女の扉は開かれ、為すがままに模様替えされた。い
つの間にかそれを手伝うかのような協力的な自分もそこにあった。何もかもが開かれてい
く、心の中さえも見透かされて。でも、それまでのことを慰めるような優しさも感じられ
た。
　蛸のような深海生物が、交じり合う二人の女を羨むように、その吸盤を部屋の窓に張り
付かせてきた。そのキッチュな環境ＣＧをおぼろげに見詰めたのが、最後の記憶。後は、
思い出すと恥ずかしい産まれたての哺乳類のような喘ぎを連発しながら、マットに沈んで
往ったような気がする。アキラの少年ぽい愛撫と比べると、サラのそれは、もう一人の嫌
らしい分身が自分自身を慰める様でもあった。遠慮なく恥ずかしげもなく、自分の体の中
へ侵入を繰り返し、快感の巣を開放してくれる。
　サラが自分に何か囁いていたのだが、その内容は思い出せない。　
　不思議だったのは、目覚めたとき彼女の心を満たしていたのが、自由と誇りを奪い去ら
れた悔しさではなく、清清しい満足感のようなものだったことだ。

　レナが立っているこの空間は、更衣室のようにカーテンで囲われていた。また何をさせ
られるのか、それを待ち受ける不安な時間が苦痛だった。サラとのひと時を思い出すと、
泉が湿り気を帯びてくる。かといって、アキラとの異常な再会とアブノーマルな設定での
交わりに想いを巡らせば、彼女の心は、まるで遠心分離機にかけられた様に、その存在軸
を揺さぶられるのだ。眩暈を覚え、立っているのが辛くなるほど……
　いっそサラ達に囲まれ、思考が麻痺した状態の方がましにさえ思えた。
　こめかみの骨伝導振動子から聴こえて来たサラの声が、はじめは幻聴かと思った。
「パメラ達が来るわ！音をたてちゃダメよ。貴女はそこに居ないかのように振舞うの。ジ
～～っとしてなさい」
　手錠を嵌められ、顔あたりの高さで、天蓋からのロープに繋がれているが、比較的自由
だった。脚は拘束されておらず、背後の支柱にもたれたりして、楽な姿勢をとることも出
来た。ベルトとマウスピースのようなもので口枷をされており、首は天蓋からのロープに
繋がれた首輪を嵌められている。
　カーテンの隙間から外の様子が観察出切るのだが、覗き見しているような罪悪感に駆ら
れ、見ないようにしていると、振動子からサラの声が伝って来た。　
「カーテンの隙間から外を見るのよ」
　もとより見えてはいた。
　ただレナを不安に陥れるだけの間延びした光景だったが。
「目を逸らしたら、お仕置きするわよ」
　やはりカメラで監視されているのだと、はたと気付いた。顔が赤くなった。
　そして、向かいの部屋から再びパメラが現われ、部屋の静けさは一掃された。
　目の前でとんでもない寸劇が展開し始めたのだ。
　それから数十分。パメラの口から、レナの名が何度か出、目の前で甚振られている男が
アキラであることを悟った。部屋が薄暗いこともあったし、奴隷扱いの情けない立場の男
即ちアキラであることが、頭の中の認識パズルに中々はまり込まなかったのだ。
　そして、大事な恋人の口に捻りこまれた布切れが、不本意に長時間使用していた自分の
下着であることを知るにいたって、顔から火がでそうな羞恥心に身を包まれた。
　よく漫画とかで「ひ～～」と言う表現があるが、こんな状態と気持を言うのだと思った。
今にも駆け出していって、それを回収して来たい気分。
　昨日お互いの体臭や体のことを深く知り合った仲とはなった。でもだからこそ、それ以
上の自分の汚い部分は隠しておきたい。言うなれば、初々しいなり立てのセックスパート
ナーだったのに……
　ショックと戸惑いで、脚がガタガタ震える。
　そんなレナをよそに、部屋の照明は一層落とされ、代わりに、哀れなアキラにスポット
ライトが当てられた。
　パメラはまるで、要介護者を抱き上げるかのように、アキラの下半身を抱き上げる。恋
人の手首に?がる鎖がジャラリとなった。確かに、昨日見たパートナーの体型に見える。
でもレナには、それがアキラを似せた人形にさえ見えた。力なく、為すがままで、そのく
ぐもった声にも馴染めなかった。グリンとこちらをむいた恋人のお尻の割れ目に、レナの
心は悲鳴を上げた。それが何故か父親を連想させたからだ。
　パメラは、アキラのお尻にクリームを噴き付けると、その真ん中に剃刀を当てた。髭を
剃るかのように、彼女は巧みに刃物を捌いた。柔らかい肌を這う音が聞こえてくるようだ。
「ほらっ！もっとお尻の穴をキュッと萎めないと……」
「切れ痔になりたいの？！」
　思わず自分のお尻を窄めるレナ。お尻の穴もキュッと締まった！！
「おならしたら承知しないわよ！」
　そう言う、パメラの瞳はあきらかにレナの方に向けられたものだった。
　人間の瞳が獣のように光るのを始めて見た。
　体中の毛穴が引き絞られ、気を失いそうになる。
　ジェットコースターに乗るよりも激しい存在感への揺さぶり……
　イリンクスってこういうことを言うのだろうか……