テーマパークの虜達　【48】
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　黒いチューブトップにミリタリーのベストとパンツ。ワンダーは今日、大人し目に決め
ていた。いつもはコミックから映画まで幅広く、コスプレしている方なのだが。
　もともとここが始まった当初、プレーヤー達は頑張って衣装を着こなしていた。皆が四
六時中コスプレしているといっても過言ではなかった。でも、ゲームと不随するイベント
やビジネスの運営は結構忙しく、最近では普段着に近い格好で日常プレイをこなすのが主
流になってきた。ま、ここでは日常がプレイで、プレイが日常であるのだけれど。なにも
かも気張ってこなすのに、皆いささか疲れた感じでもある。もともとファッションデザイ
ン学校卒で、学生時代勉強も兼ね、自作でコスプレとかもしていた彼女は、このイベント
にエントリーする前からネットアイドルだった。レイヤー系のプレイヤーと呼ばれている。
自分でもややこしい呼ばれ方だなと思っていた。
　トムが来てから、少し意識して、普通の女の娘っぽい格好をして見た。オタクっぽく見
られたくなかったからかも知れない。でも、トムのニックネームもアメリカ映画の主人公
から取ったと聞いて、親近感も湧いたし、少し安心した。コスプレすることは、プレイヤ
ーの仕事のひとつなんだから、気にすることもないんだけれども……彼といる時、普通の
格好で居たいと思うのはデート感覚なのかも知れない。どちらかと言うと和風顔の自分は、
彫りの深いトムに関心を持ってしまったのかも。考えていると、胸中がもやもやして来た
ので、違うことを考る。
　本当にトムが言う通り、予想外にパメラ達の復活が早くって、電光石火で逆襲して来た
ら……戦闘に破れ、自分が捕まった想像がふと頭を過ぎった。
ヒロインが監禁され、悪役に責められる。SF映画やアニメでは、よくある設定。コスプ
レの一環として在り得る構図だ。
　でもパメラ達のエスカレート振りはひどかった。アリエスは晒された。恥ずかしく膨ら
んだ乳輪や、アンダーヘヤが露出した姿まで。裏ではもっと凄いシーンが流されたとも聞
く。トムは一体アリエスの悲劇をどこまで目撃したのだろう。
　もし、自分もアリエスのように縛り付けられて……
　チューブトップを摺り下ろされ、ボロンと露出する乳房。パンツのホックも外され、あ
わやと言うところを不安げに見守るトム。今日穿いてきたお気にのパンティーも彼の目に
触れる……想像すると、顔が火照ってきた。
　トムがチラリとこちらを向き、慌てて、目を逸らすワンダー。
「どうかした？」
「なんでもない」
　うつむき加減で、ぼそりと否定する。

　トムは始め、ワンダーが自己主張の激しい我侭女だろうと勝手に想像していたが、実際
には口数も少なく、大人しそうなのが以外だった。話していたりすると、たまに今みたい
に顔を赤らめたりもする。少女っぽい表情を見せたりするのも男心をくすぐられた。
　機械室のような鉄錆色のレリーフの壁、緋色の照明。赤とか黒とか茶色とか暗めのカラ
ーがこの施設の基調色だった。う～～んと低く唸る空調？の音と相俟って、不気味な感じ
を醸し出している。エレベーターの前の、少し開けた、そして少し明るい空間にある半円
形のベンチで二人は、待っていた。
　視察なのだ。
　新たに支配した領土の経済活動を確認するための。その意味では領主であるワンダーだ
けでも、良かったのだが、彼女のチームには女性しかいなかった。この要塞都市のゲスト
エリアで行われている産業の性格上、女だけで訪問するのは気が引けたし、なにより怖か
った。
「正解だと思うよ。俺を呼んでくれて」
「彼女達のことだから、君を騙して、何か恥ずかしい目に遭わせたかも知れない」
「ルール違反承知でさ……」
　頭の中の想像をまるでトムに見透かされたような気がして、ワンダーはまた頬を赤く染
めた。
　恥ずかしそうな女性の表情が、アリエスのことを思い出させた。胸が痛む。やはりあれ
は、どう考えても女性にとって、つらいことなのだ。否、男だってつらい。アリエスは果
たして戻ってくるだろうか？気丈なタイプの女性だけに、心のギャップを埋めるのにかえ
って苦労するんじゃないだろうか？まさか自殺したり……いやいや、アリエスのことはマ
サトに任せておけばいい。もともとトムにとっては、先輩の恋人に過ぎないのだから。
　トムのリクエストに、彼の好きだった映画の劇中ステージを、そのヒロインと同じ衣装、
同じ曲目で再現してくれたことがあった。嬉しさと同時に本当に自分の女にしたいとも思
った。実際、彼女は映画のように敵に囚われ、それを救う役回りを演じたのは、やはりマ
サトだった。
　どうせ自分の物にならないなら、お手軽な女になってくれた方が良い。パメラ達のおか
げで、彼女の性が売り物にされたことを、感謝でもすれば？こんどの休暇には自分の部屋
でアリエスのお宝映像を探せば良い。ひょっとすれば、無修正のアリエスの裸に有りつけ
るかも知れないぜ。美化されたおまえの頭の中の彼女じゃなくて、意外と汚いお○んこか
もな。だって、あの時みた乳首は、おまえが思ってたほどピンク色じゃなかった筈さ。も
っと不真面目に考えりゃ、いつかは落ちぶれたアリエスのお○んこが、おまえの自由にな
る時があるかも知れない。順番にこだわり過ぎると、せっかくのチャンスを逃すことにな
るぞ……心の中で囁く悪魔の誘惑。トムは、奥歯を噛んだ。こぶしを握り締め、自分のこ
めかみを殴り飛ばしてやりたかった。二人の対立した自分同士が激しく殴りあう姿が脳裏
に浮かび上がる。でも、今の自分がぼこぼこにされた方が、すっきりするかもな。心の中
で、第何番目かの自分が囁いた。