テーマパークの虜達　【49】
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　ワンダーを気遣うような台詞を言ったかと思うと、今度は険しい表情になった。"何か
怒ってるのかなぁ"とトムの横顔を窺うワンダー。
　昔の体重計のような大袈裟なゲージが先っちょの矢印を点滅させながら動き、エレベー
タの近付く音がした。ゲージの裏から煙が噴出したのには、ちょっと驚いた。シュワッ～
～と扉が開き、彼女は来た。
「お待たせしました？」
　SMの女王様と言うから、凄いボンデージ・ファッションで表れるのかと思ったら、そ
うでもなかった。こげ茶のスェード？のビスチョに、同系のパンツ姿。別に彼女はプレイ
ヤーじゃないらしいから、普段は普通の格好なのかと思ったら、結構パメラのチームの特
徴であるスカルやバグのシルバーアクセサリーが、そこかしこに鏤められていた。
　ワンダーの一瞥に対する返礼のように、素早く自分を観察してくる彼女の視線にぞワッ
と鳥膚が起った。男女の体の構造を知り尽くした機械にスキャンされた気分がした。思わ
ず両手で胸を庇いそうになるワンダー。
「アカネです。宜しく？！」
　ワンダーの気持をはぐらかすかのように、アカネが笑顔でそう言った。
　三人はビジネスマンのような"というか、ある意味本当にビジネスなんだけれども"挨
拶を交わし、紹介しあった。何か調子が狂うなと思うワンダーを尻目に、トムが会話を切
り出した。
「今日は、仕事じゃないんですか？」
　ん？という表情を見せ、すぐに了解したのか彼女は応えた。
「いいえ、仕事ですのよ」
　そして、二コリと笑み、言葉を続けた。
「今も！」
　どゆーいみ？と二人は揃って思う。
　ワンダーは彼の発想も自分と同じ程度なんだとシンパシーを感じた。
「放置プレイってご存知？」
　二人は揃って頸を横に振った。言葉は、知っているがその内容は良く知らなかったから、
もしくは知らない振りをしたかったからだ。
「部屋に客を転がしてありますの」
　二人の顔色を面白そうに窺う。
「いきなりディープなプレイを紹介しても、解りにくいでしょうから、機会があれば追々
ご案内いたしましょ」
　文化教室を訪れた初心者を迎える講師のような丁寧な語り口だ。
「丁度、初心者向けのコースにお客が入ってますので、そちらをご見学願います？」
　トムがワンダーを振り返り、ワンダーはおどおどと頷いた。
　アカネに導かれ、悪魔の巣くいそうな回廊を、二人は歩み出した。

★

　真上から見ると、本当にその人の人生とプライバシーの全てを象徴しているような感じ
がする。
　特に周辺の雑草を刈り上げた男性のそれは、女性のように、入組んだ峡谷や、その端で
顔を覗かす火山口が傍らに存在しない分だけ、さっぱりと見える。中央に向け淡く彩りを
変えるそれは、まるで静止衛星軌道上から見た、砂色の地表へねじ込まれんとする地底へ
の入り口だった。
　自分の仕上げたその仕事を見詰めるパメラは、自分が天空から地上を見下ろす神のよう
な気分で、アキラの肛門を見下ろしていた。
　その穴がクリッと曳く付き、瞑想気分が害された。微かな怒りも覚えたが、自分の完全
なる支配下にあるものへの母性のような？心情がそれを飲み干した。

　ミーナから、なにやら毛ばたきの様なものを受け取ったパメラは、言った。
「こっちにおいで、もっと、私の背中に張り付くように」
　遠慮気味にパメラの右肩の上に、顔を乗り出すミーナ。
「だめよ、ほら！もっと彼氏に抱きつくように」
　憧れの人の背に寄りかかるように、パメラの肩に抱きついた。彼女の配下に甘んじてか
らベットの上で組み伏せられたことは、何度か在った。未体験の倒錯。それを拒絶する心
はやがて薄れていったものの、魂までは譲れなかった。でも今始めて、パメラの背を抱き、
知らないうちに育まれていた自分の思いが、心の奥底から湧き上がって来る。パメラは服
を着け、自分は裸同然。本来なら屈辱的な扱いなのだが、自分の胸や肩へ、ニット生地越
しに伝わるパメラの温もりが嬉しかった。
　ひょっとして、私はパメラとの別れを惜しんでいるのかも……気付かない内に好きにな
った？それとも彼女に魂をうばわれたのか？貪欲さを覚えこまされた肉体がここでの生活
に執着してる？
　ミーナの戸惑いに終止符を打つようにパメラが言う。
「私が後ろに倒れないようにしっかりと抱いていて」
　そのように努力すると、惨めなアキラの姿が視界に入った。パメラはシェパードの尻尾
のような色合いと大きさの毛ばたきで、彫刻の埃でも拭うかのように、彼の体を撫で回し
ていた。彫刻でない彼はもちろん産まれたての子犬のように震え、身悶えている。
「私の頬にキスして」
　ミーナはドキッとしたが、お願い、いや命令に従う。
　彼女を待ちうけ傾けられたうなじと、耳たぶを間近に通過し、上昇気流を感じた。
鼻腔に舞い込む女性独特の匂い。花が放つようなフェロモンの色香。パメラは欲情してい
るんだと気付いた。心の中で、何かが震え、ミーナの性感帯も囀りだした。アキラの視線
を微かに感じたが、それは無視する。押し付けられたミーナの唇は熱く、彼女の舌の先端
は、パメラの頬を優しく叩いた。ハチドリが蜜を突付くかのように……
　パメラはああっと震えるようなため息を吐いた。