テーマパークの虜達　【50】
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　暗い木造船内風のフロア。アカネのブーツの音が、廊下にこだまする。カッコいい歩き
方だと思った。何か自分の歩き方って、まだまだ垢抜けないところがある。
　トムが収集した情報によると、アカネはパメラの元からの親友？で職業女王様であると
のことだ。たまにパメラのビジネスを手伝っているらしく、別にゲームそのものに参加す
るとかは意図していない感じだった。でも今回、パメラからべノンでのビジネスの支配人
を依頼され、私達の案内役を買って出たらしい。彼女がこの要塞都市に現われたことは、
トム達に様々な憶測を呼び起こした。単に、ルール上、べノンのゲストエリアへ出入り出
来なくなったので、頼りがいのある友人を送り込んで来たとも言える。或いは即座に戻っ
て来る為の下準備かも知れない。待ち合わせの前、トムはアカネのべノン入りとそれに関
する自分の見解をマサトに報告した。彼は、基地の奪還以上の何かが迫っていると思って
いるらしい。真相を知りたくてアカネをどうこうしたくとも、彼女はただテナントでビジ
ネスを行う事業主に過ぎないので、手の下しようがない。そのくせ、彼女が巧妙な大人の
罠を仕掛けてくるのには、警戒しなくちゃならないのだ。
　ワンダーには、アカネがそんな狡猾な女性には見えなかった。なんか色々お話してみた
い気もしていた。接した事のない世界に、好悪は別にした関心が芽生えたのかもしれない。
でもトムは険しい表情をしている。怒ってるの？それとも私みたいに緊張してるの？どっ
ち？

　アカネが立ち止まり、一室の扉をノックした。部屋の向こうで何やらゴソゴソカタカタ
と気配がする。煤けた木製の扉、鉄のバンドで縛られ、ボルトが打ち込まれている。「ハ
イ」と返事がし、間もなく、閂を開けるような音がした。シリンダー錠も認証キーなども
ない、旧式"というか昔"の扉に驚いた。ギぃーっと音がし、隠された空間が開かれる。
　真正面に立っていたワンダーは、「ぎゃおっ」と小声で叫び、トムの背後に退いた。部
屋の真ん中に在る椅子に、絡まった裸の男女が何やら妖しく蠢いていたからだ。トムの肩
越しにそれでもチラリと中を見る。理髪店の椅子のようなものに万歳姿で縛り付けられて
いるのが男性で、上に跨っているのが女性だった。二人はどうやら、下着らしきものは一
切着けていない。男性はM字に開脚させられ、陰毛のような黒い影もチラチラ見える。女
性の体は黒いロープで、恥ずかしく縛り上げられていた。亀甲縛りとか言うやつだろうか？
　女王役の女性は、レナ達がアカネと会う前に想像していたような激しいボンデージで、
あちこち挑発的に露出した黒いレザーのレオタード姿だった。
　彼女は軽く二人に挨拶すると、アカネに目配せされ、プレイに戻った。
　躊躇する二人にお構いなく、アカネは容赦なく、「どうぞ」と室内へ誘った。
　顔にタオルを被せられ、恥ずかしい姿を全くの部外者に晒されていることを自覚出来な
いでいる男の膝を掴み、その事を教えてやる。
「惑星べノンの新しい領主様だよ！若くて可愛いわよ」
　男の体から桜色の何かが、ポロポロと落ちた。ロウソクの滴の後かな？と思う。
　"若くて可愛い"と言う言葉にカチンと来たが、仕方ないと思った。この部屋の女王は
プレイヤーではない。毎日こういうお仕事を繰り返して、報酬を得ている従業員なのだ。
男性に跨る女性も、この部屋の女王もまったくスタイルが良い。体を張ると言う意味でプ
ロフェッショナルに見える。コスプレ系のプレイヤーとして、自分もトレーニングや体の
お手入れには、気をつけている心算なのに、負けてる気がする……ちょっと、悔しい。
　そして、椅子の上の男性は、ゲームには何の関係もない外からのお客。ワンダーの心の
中で、いつも維持しようと心がけているゲームへのテンションと言うか高揚感とかいった
ものが、萎えて来た。この部屋の空気全体がワンダーとトムを疎外しようとしているかの
ようにも思える。
　窓から見える宇宙は、一応グラフィックス映像であるが、ホストエリアのそれと比べれ
ば、遥かにグレードの落ちたシステムのスクリーンに投影されたものだった。掠れ、日常
の世界が侵食し、迫ってきている。これでは、寂れた遊園地のプラネタリウムの方がまし
だ。
　女王がはたきのような鞭で、女の背中を打つ。バシリっと大きな音が鳴り、打たれた彼
女は蛇のように身を捩じらせた。
「サボるんじゃないわよ！」
　キツイ声色に部活の先輩を思い出すワンダー。
　下腹部を、仰向けの男性のお腹に擦り付ける。ヒップを突き出すと、小さな窪みがこち
らに挨拶し、ほかほかと温めたばかりのような、ウェットな女性器が顔を上げた。ゴムを
着けた木の枝のようなシンボルが、下から突き出している。それを挟み込むように上下す
る彼女の陰唇。筆を咥える書道家の唇のように。
　トムの背後で、小さくなるワンダー。でも、彼女の瞳孔は、動くものを見つけた小猫の
瞳のように大きく見開かれた。トムの肩越しに、最早目が離せないでいる。
　"チ、チ○コ？が○、マ○コに？"うら若き女性が、他人様のこんな場面をしかもこん
な間近で、直接に鑑賞していても言いのだろうか？こんな時の道徳の基準って、心の法律
書の中に、何かあったかしら？慌てて、ページを捲ろうとする彼女の良心は、地震のよう
に揺れるワンダーの心殿の中で、ポロリと法典を落としてしまった。悪魔が後ろからドン
と背中を突いたのかも……
　血管を浮き立たせた禍々しいそれは、サイの角のように、女の柔らかい部分を突付く。
うっかり、男の持ち物が、重力に逆らった女性の沼に沈んでしまいそうになると、女王は
懐中電灯のような形の強烈なバイブで邪魔をするのだ。
　ヴっぃ～～と言う音を起てて、絶妙な角度で、男性の持ち物の裏側を擦り上げると、女
性の大事な部分を守るベールを潜り抜け損ねた彼の弾頭は、彼女のお尻の穴に衝突する。
　そんなことが繰り返される度、女性は頭を叩かれた子犬のような声をあげ、男は食用蛙
のようなうめき声を上げた。
　ワンダーの心の中で失神しそうになっている彼女の良心は、その聴覚と視覚を悪魔に侵
食された感じがした。鼻腔にも何か嗅いではいけないような禁断の匂いが、忍び寄る。
　トムのベストの背を掴み、何時しか、顔を彼の肩の上に乗り出しそうになっていた。
微かなコロンの香りが、ワンダーを安心させた。
　誰にも悟られない程のリズムで首を左右に振るワンダー。こんなのが癖になったらどう
しよう。馬鹿、馬鹿、馬鹿、私はもう立派な大人なのよ。地団駄踏みそうなのを一所懸命
我慢していた。
　ワンダーには、もし、上の女性が自分で、下の男性がトムだったらと言う連想がどうに
も消えず、頭の中から追い出そうとすれば、する程、強烈でリアルなイメージとなって、
またしても蘇ってくるのだ。
　そして、そんな彼女の心を見透かすようなアカネの視線にワンダーは気付いていない。